日記
不幸な、一生だったと?は独白する。
薄暗い路地裏。朝日はいまだ、遠く、ただ静寂だけが嫌に痛かった。
俺の、握りしめたピストルの重たい金属の感触。
走馬灯はなかった。ただ、思い巡らすのはいつか、まだ静かな小春日和のような思い出だった。
いや、実際のところ、そんなものは見たいものを、見せてくる脳の作り出した最悪なデウスエクスマキナだろう。
脱力しながら座り込んで、目を瞑った。
目を覚ます。俺は肉の塊の、側に立っていた。
脳髄をぶちまけた、醜い死体だ。いや、俺だった。
そうして、その死体を発見した人は悲鳴を上げ、
俺の知らないだれかが、葬式をあげ、
俺は葬られた。
そうだ、俺はすべてをみていた。
そこで、死んだはずの、いや、いくらか若くなったお前が、やあ!君も死んだのかい?
って、馴れ馴れしく話しかけてきたのですべてを理解した。
今日も、町中の墓地で、友人とくだらない会話する。これも、驚くべきことだが、墓地は死したものには賑やかな場所だった。どうも、ひとは死んでしまった、年齢だけ、地上を生きねばならないらしい。
なあ、だんだんと、若くなって、しまいには赤子のようになって、ゆっくり、みんなの雪のように溶けてゆく。
それを、粛々と、みんな受け入れて、まるで、そんな事実なんてないように一日中、過ごしてる。
神なんてだれも、もはや信じてなかった。最初はみんな縋ったり、泣き喚いたりしたが、身近なひとが少しずつ、身体が崩れて、消え去るのを見た瞬間には諦めたような顔をして、黙っちまった。
俺たちはみんな生あるときに相手にか、自分にか呪われてしまった、それだけの理由なんだ。
道端で煙草が、捨てられていた。
俺も、最初の頃はこうだったのに。
ふと、思い出して、ああ、だれかが、煙草を拾ってゴミ箱に捨てた。そうして、なも知らないだれかが文句を並べてるだけ、その魂は淀んでいく。
すべて、等しいのだ。